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1 はじめに
相続が発生したら、いつ、何をすべきなのでしょうか?
どのように手続きを進めていけば良いのでしょうか?
遺産分割はどのように進めていくのでしょうか?
今回は、相続に関する基礎知識について解説します。
2 葬儀・告別式
被相続人が亡くなった後、すぐに葬儀・告別式を執り行わなければなりません。
この際に必要となる費用は、被相続人の財産から支出して良いのでしょうか?
実務上は、原則として、葬儀費用は、喪主の負担となりますので、喪主の判断で被相続人の財産から葬儀費用等を支出した場合、後々、問題となりますので注意が必要です。
3 相続財産・相続債務の調査
預貯金の有無、残高については金融機関に照会します。
不動産については、登記簿謄本を取得して権利関係を確認しましょう。
債務については、信用情報の開示も有用です。
代表的な信用情報機関は、以下の3つのものです。
- 日本信用情報機構(JICC)
- シー・アイ・シー(CIC)
- 全国銀行個人信用情報センター
https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/
*相続財産及び相続債務の調査を終え、必要な場合には期限内に相続税の申告を行う必要があります。
4 相続放棄・限定承認
相続債務額が大きい等の理由で限定承認や相続放棄を行う場合には、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に行う必要があります(民法915条)。
5 遺言の調査
公正証書遺言は公証役場で検索可能ですが、それ以外の遺言は、自宅を探したり、被相続人の親しい友人に遺言を預かっていないかを聴取するなどして調査します。
6 遺言がある場合
(1)検認
公正証書遺言を除き、遺言の保管者は、家庭裁判所に検認を請求しなければなりません(民法1004条)。
検認とは、相続人に対して、遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言執行前に遺言書を保全し、後日の変遷や隠匿を防ぐために行う手続きです。
検認手続きは、相続人全員に通知のうえで行いますので、相続人全員の住所を調査する必要があります。
(2)遺言の効力の確認
1)形式的要件の確認
ア 自筆証書遺言の場合
以下の民法968条の要件を備えている必要があります。
- 全文の自書
- 日付の記載
- 氏名の記載
- 押印
他の相続人から、筆跡が被相続人本人のものではないと争われることもあります。筆跡の同一性を判断するためには、筆跡鑑定を行うことになりますので、被相続人が書き記したものがないか確認しておきましょう。
イ 公正証書遺言の場合
公正証書遺言の場合、以下の要件が必要とされます(民法969条)。
- 証人二人以上の立会いがあること。
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
- 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
- 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
- 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
公正証書遺言は、公証人の面前で作成されるものですので、一応は形式的な要件は備わっているものと考えられますが、口授の存否が争いになることがあります。
2)実質的要件の確認
遺言書の作成当時、遺言者が遺言能力(自分がしようとしている遺言の内容やその意味を理解することができる意思能力)を備えていることが必要です(民法963条)。
形式的要件を備えていても、実質的要件を欠けば、遺言は無効となります。
遺言を無効にするためには、遺言無効確認訴訟を提起する必要があります。
(3)遺言執行者の選任
遺言執行者とは、遺言者が亡くなり、遺言の効力が生じた後にその内容を実現する事務を行う権限を持つ者のことをいいます。
遺言者は、遺言によって遺言執行者を指定することができますが(民法1006条)、被指定者はこれを承諾することも拒絶することもできます(民法1007条)。
遺言者が指定されていなかったり、被指定者が遺言執行者への就職を拒絶した等の理由で現に遺言執行者がいなかったりした場合には、利害関係人(相続人、相続債権者、受遺者等)の請求によって家庭裁判所がこれを選任します(民法1010条)。
(4)遺留分
1)遺留分とは
遺留分制度とは、被相続人が有していた相続財産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です(民法1042条)。
遺留分権を有する相続人を遺留分権利者と言います。
遺留分権利者は、被相続人の配偶者、子、直系尊属であり、子の代襲相続人も、被代襲者である子と同じ遺留分を持ちます。
一方、兄弟姉妹には遺留分はありません(民法1042条)。
全財産を特定の相続人が取得する、または一切の財産を特定の相続人には取得させないという趣旨の遺言がある場合、遺留分侵害額の請求(遺留分減殺請求)の問題となります(民法1046条1項)
2)遺留分侵害額の算定(民法1043条、1046条2項)
遺留分侵害額の算定は非常に複雑ですので、専門家へのご相談をおすすめします。
3)遺留分侵害額請求権の期間の制限(消滅時効)
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間、または、相続開始の時から10年間が経過したときは、時効によって消滅します(民法1048条)。
7 遺産分割の流れ
(1)はじめに
遺産分割は、一般的には以下の流れに沿って進めていきます。
(2)相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せる必要があります。
(3)相続財産の範囲と評価の確定
相続財産としては、以下のようなものが挙げられます。
- 預貯金
- 有価証券(株式、証券)
- 不動産(土地、建物)
- 動産(貴金属、車、時計)
相続財産の評価時期としては、遺産分割時が基準時であると考えられています。
また、評価額が争われる場合には、鑑定を行うこともあります。
(4)特別受益の確定
1)特別受益とは
特別受益とは、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として贈与を受けたりした者がいる場合、この利益を遺産へ持ち戻す義務があるという制度です(民法903条)。
たとえば、結納金、相続人が事業を行う際の資金提供、独立する際の土地・建物の贈与、高等教育や留学のための学費等がこれに当たると考えられます。
2)特別受益の計算方法
まず、みなし相続財産を算定します。これは、相続財産に特別受益である生前贈与を加えて、みなし相続財産を算定します。
遺贈は相続財産に含まれているため、加算しません。
このみなし相続財産を基礎として、各相続人の相続分を算定します。そして、特別受益者は、この相続分から特別受益分を差し引いた残額を算定し、これが特別受益者の具体的相続分となります。
なお、相続分を超える贈与額や遺贈があっても、遺産分割に当たっては取り分がなくなるだけであり、超過部分を返還しなくても良いことに注意しましょう。
3)持戻し免除の意思表示
ア 持戻し免除の意思表示の効果
特別受益を相続財産に加えて算定の基礎にすることを持ち戻しと言います。特別受益者については、原則として「持戻し」の計算をすることになります。
もっとも、被相続人が遺贈や生前贈与を相続分の算定に当たって考慮しないこと等の遺言を作成している場合などには、持戻し免除の意思表示が認められることがあります(民法903条3項)。
持戻免除の意思表示が認められる場合、持戻しの計算はしないことになります。
イ 持戻しの意思表示の方法
持戻し免除の意思表示は、明示の意思表示に限られず、黙示の意思表示でも認められることがあります。
(5)寄与分の確定
1)寄与分とは
寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がある場合に、他の相続人との間の実質的な衡平を図るために、その寄与相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度をいいます。
寄与分権者は、相続人に限られます(民法904条の2)。
2)寄与分の計算方法
寄与分がある場合、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額から寄与分を控除した価額をみなし相続財産として、これに相続分の割合を乗じて算定したうえで、寄与分権者にはさらに寄与分を加えて具体的相続分を算定することになります(民法904条の2第1項)。
3)寄与行為の類型
- 被相続人の事業に関する労務の提供
労務提供の形態としては、家事従事型、従業員型、共同経営型等が考えられます。
- 被相続人の事業に関する財産上の給付
被相続人の行う事業等に関し、資金や不動産を贈与した場合が考えられます。
- 被相続人の療養看護
相続人が実際に療養看護を行う場合と、第三者に療養看護をしてもらいその費用を支出する場合が考えられます。
(6)具体的相続分の算定
以上の過程を経て、具体的相続分の算定を行います。
具体的相続分の算定の計算式は、以下のとおりです。
具体的相続分=(遺産+特別受益-寄与分)×相続割合-特別受益+寄与分
(7)分割方法
さいごに、具体的相続分にそう形で、遺産の分割方法を決めます。
現物分割、代償分割、換価分割などの方法がとられます。
*遺産分割後、必要な場合には、相続税の更正の請求を行う必要があります。
8 相続法改正
平成30年(2018年)、相続法が改正され、配偶者居住権(民法1028条)などが定められました。
改正された相続法については、またの機会にご説明することとします。
9 おわりに
以上が相続に関して知っておきたい基礎的な知識です。
相続は私たちの身近な問題ですが、弁護士による専門的な処理が必要な分野です。
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