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1 はじめに

 

事実婚(内縁)とは、どのような関係をいうのでしょうか?

事実婚や同性婚(同性カップル)における法律関係は、どのように整理されるのでしょうか?

 

今回は、事実婚(内縁)及び同性婚(同性カップル)に関する基礎知識について解説します。

 

 

2 事実婚(内縁)に関する法律関係

 

 

(1)事実婚とは

 

事実婚(内縁)とは、法律婚とは異なり、婚姻届を出さずに、当事者の意識や生活実態において、共同生活を送る一対の男女関係を指します。

 

 

(2)事実婚の成立要件

 

通説によれば、その要件は以下の2つです。

 

  1. 婚姻の意思(社会的な意味で夫婦となろうとする意思)の存在
  2. 夫婦として共同生活を送っていること

 

婚姻の意思とは、社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思のことであり、婚姻の基本的効果を享受する意思がないのであれば、婚姻の意思はないと考えられます。

 

 

「婚姻の意思」は、偽装結婚(子に嫡出性を付与させるための婚姻)や臨終婚(死期の迫った者の婚姻)において、婚姻の効力が争われる事案で問題となります。

 

婚姻の意思の認定に当たっては、以下のような事情が考慮されます。

 

  • 夫婦と言い得る共同生活が一定期間続いているか
  • 結婚式を挙げているか
  • 性的関係の継続性
  • 妊娠の有無
  • 両名の間の子の有無
  • 生計の同一性
  • 親族や会社関係者、友人・知人に夫または妻として紹介しているか
  • 親族の冠婚葬祭に出席しているか
  • 住民票に「同居人」ではなく「妻(未届)」などとして提出しているか
  • 勤務先の年金保険、健康保険等の社会保険において他方を第3号被保険者(被扶養者)として届け出ているか

 

(3) 事実婚(内縁関係)に関する法律関係

 

1)類推適用されると考えられる定め

 

事実婚においては、以下のような定めが類推適用されると考えられます。

 

  • 婚姻費用分担義務(民法760条)
  • 日常家事債務の連帯責任(民法761条)
  • 帰属不明財産の共有推定(民法762条2項)
  • 財産分与(民法768条)

 

また、法律婚と同じく、事実婚においても、貞操義務が生じると考えらえますので、パートナーが不貞行為に及んだ場合には、慰謝料を請求できます。

 

 

さらに、事実婚のパートナーが事故で亡くなったような場合、加害者に対し、扶養請求権の侵害を理由に、扶養利益喪失分を損害賠償請求することができます。

 

 

2)類推適用されないと考えられる定め

 

一方、事実婚においては、以下のような定めは類推適用されないと考えられます。

 

  • 夫婦同氏(民法750条)
  • 成年擬制(民法753条)
  • 夫婦間契約の取消権(民法754条)
  • 子の嫡出推定(民法772条)
  • 配偶者相続権(民法890条)

 

 

上記の中でも、一方の死後、残されたパートナーに配偶者相続権が認められない点は重大です。

残されたパートナーが住居を失ったり、相続人との間の深刻なトラブルに発展することを防ぐためには、パートナーシップ契約書や遺言、信託などで手当をしておく必要があります。

 

また、認知症等を発症し判断能力が衰え、財産管理を任せる必要がある場合に備えて、任意後見契約を締結することを検討すべきです。

任意後見契約とは、委任者が受任者に対して清心上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部を委任し、委任に関わる事務について代理権を与える委任契約であり、公正証書を作成し、登記することが必要です。

 

 

 

3 同性カップル(同性婚)に関する法律関係

 

(1)同性婚、同性カップルに関する現状及び制度

 

同性婚は、2021年現在の日本では認められていません。

 

しかし、近年、渋谷区や世田谷区などの自治体においては、多様性を尊重することなどを目的に、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の方のためのパートナーシップ制度が定められ、この動きは全国の自治体に広がっているようです。

 

なお、渋谷区のパートナーシップ制度では、同性間の「パートナーシップ証明書」を発行する要件として、任意後見契約に係る公正証書を作成し、かつ、登記していることが必要とされるなど、各自治体によって、その要件は様々です。

 

 

(2)同性カップルに関する法律関係

 

同性カップルに対しても、上記事実婚(内縁)と同様に、法律婚に関する定めを(類推)適用することは不可能ではないかもしれません。

 

すなわち、財産分与や不貞行為慰謝料が認められる余地がないとはいえないと考えられます。

 

 

この点、宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決は、

「法律上同性婚を認めるか否かは別論,同性のカップルであっても, その実態を見て内縁関係と同視できる生活関係にあると認められるものについては, それぞれに内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められ,不法行為法上の保護を受け得ると解するのが相当である(なお,現行法上,婚姻が男女間に限られて いることからすると,婚姻関係に準じる内縁関係(事実婚)自体は,少なくとも現時点においては,飽くまで男女間の関係に限られると解するのが相当であり,同性婚を内縁関係(事実婚)そのものと見ることはできないというべきである。)。 」

と判断しており、注目に値します。

 

 

しかし、現時点においては、同性カップル間の法律関係は不明確ですので、パートナーシップ契約書などによる合意(契約)によって、予めパートナー間の法律関係を定めておいた方がトラブルの発生を防ぐことができると考えられます。

 

ここで定めるべきと考えられるのは、婚姻費用の分担割合、不動産の帰属、財産分与の割合、貞操義務、死後の財産の帰属などですが、公序良俗に反するような合意は無効とされてしまいますので(民法90条)、弁護士などの専門家に作成を依頼すべきでしょう。

 

4 おわりに

 

以上が事実婚(内縁)及び同性カップル(同性婚)に関して知っておきたい基礎的な知識です。

 

事実婚及び同性カップルに関する法律関係は、必ずしも法律婚における法律関係とは一致しない複雑なものですので、弁護士による専門的な処理が必要な分野です。

 

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